カリキュラム開発と「羅生門的アプローチ」

カリキュラム開発と評価を考える際、この「羅生門的アプローチ」を知っていると今までとは違った視点を持つことができました。ボク自身、新潟県上越市立高志小学校、長野克水校長に教えていただきました。
「羅生門的アプローチ」は、『カリキュラム開発の課題ーカリキュラム開発に関する国際セミナー報告書ー』(1975文部省)の中で言及されているものです。
この「羅生門的アプローチ」はカリキュラム開発に新しい視点を与えると共に、日々の授業を考えていく際にも有用な考え方です。「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」を対立的にとらえるのではなく、弁証法的に編んでいくことが大切なのではないかと思っています。特に後者は「総合学習」や、合科的な学習を考える際にヒントを与えてくれます。
ボクに大きな影響を与えた理論の1つです。

                   *  *  *

「羅生門的アプローチ」という呼び名は、1974年の「カリキュラム開発に関する国際セミナー」にてJ. M. アトキンが、「工学的アプローチ(接近)」と「羅生門的アプローチ(接近)」として言及したものです。 同書では、カリキュラム開発において可能な2つのアプローチ、「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」とを対比的にあげている。


第1表「工学的接近」と「羅生門的接近」の対比(1) ー一般的手続きー
工学的接近(technological approach
  
  一般的目標
    ↓
 「行動的目標」
    ↓ 
   教材
    ↓
 教授・学習課程
    ↓
行動的目標に照らした評価 
羅生門的接近(rashomon approach)

一般的目標

創造的教授・学習活動

記述

一般的目標に照らした判断評価

 工学的接近」では、まず一般的目標が立てられ、それがより具体的な特殊目標に分節化される。そしてその特殊目標が、「行動目標(behavioral objective)」に定式化される。行動目標とは、ブルームが提唱したもので、測定可能な目標である。そしてその目標を実現するための教材が作成され、それを用いて教授学習活動が試みられる。最後にその目標がどれだけ達成されたかを「行動目標」に照らして学習者たちの行動で評価し、その結果を基にカリキュラム評価を行うことになる。

 これに対し「羅生門的接近」では、一般目標が立てられるまでは同じであるが、次の段階で違いが生じる。次の段階で特殊目標に分節化することをしないで、一般的目標を十分に理解した「専門家としての教師」が
「創造的な教授活動(creative teaching activities)」を試みるのである。
 そして、「この教授活動によって学習者に何が引き起こされたか、そのすべての結果が、できる限り多様な視点から、できる限り詳しく叙述される。この記述は、さきの一般的目標にかかわる側面の記述に限定されない、という点が重要である。次に、その記述にもとづいて、一般的目標がどこまで実現されたかの判断が下され、カリキュラム開発へのフィードバックが行われる」。
 この2つのアプローチを言い換えると、工学的接近は、
「分析的、分子論的(atomistic)」であり、羅生門的接近は
「全体的(wholistic)」といえる。
  新潟県上越市立高志小学校で行われている研究開発法は、まさしくこの「羅生門的接近」を具現化したものといえる。
(筆者が行った長野校長とのインタビューの中で、このアプローチに共感しつつも、今まで具体的な実践例がなかったことを指摘し、その具現化のための試行錯誤の末、今の高志小の開発法に行き着いたと述べていた。)

 羅生門的接近は、評価の面でも以下のような視点を示している。

第2表「工学的接近」と「羅生門的接近」の対比(2) ー評価と研究ー
工学的接近(technological approach)

目標に準拠した評価
 (goal-reference evaluation)
一般的な評価枠組
 (general schema)
心理測定的テスト
 (psychometic tests)
標本抽出法
(sampling method)
羅生門的接近(rashomon approach)

目標にとらわれない評価
(goal-free evaluation)
さまざまな視点
(various perspectives)  
常識的記述
(common sense description)
事例法
(case method)

従来の工学的接近の客観性の重視、「目標なくして評価なし」のアプローチに対し、羅生門的接近においては、主観性を重視する。人には特有の偏り、バイアスがあることを前提に、さまざまな視点・立場から互いに異なる側面を見てそれを主観的、常識的に記述し、その情報を共有することが、カリキュラム開発にとって有用であるとしている。またそれは、学習過程は非常に複雑で豊かなものであり無限の側面を持つものであるから、目標に照らして客観的に評価するだけでは学習過程をとらえきれない、という前提にも関係している。


 羅生門的アプローチは、目標についても重要な示唆を与えてくれる。すなわち、創造的教授・学習活動を可能にするためには、目標はより「一般的であれ」とするのである。

第3表「工学的接近」と「羅生門的接近」の対比(3) 
                  ー目標、教材、教授・学習課程ー




目標



教材




教授学習
過程


強調点
工学的接近
(technological approach)    

 「行動的目標を」 
 「特殊的であれ」


教材のプールからサンプルし、
計画的に配置せよ              


既定のコースをたどる        


教材の精選、配列          
羅生門的接近
(rashomon approach)

「非行動的目標を」
「一般的であれ」


教授学習過程の中で教材の価値を発見せよ


  
即興を重視する
 


教員養成 

そうすることで、目標に実践が規定されることなく、創意に満ちた実践が可能となる。
教材については、羅生門的アプローチでは以下のような考えに立つ。

「教材の価値や内容は、教授・学習の実践の中で発見・開発・評価されていくと考える。同じ教材でも、学習者の活動や経験はさまざまでありうる、とする。そこで、教材の質は、教授・学習過程の中で問われるべきである、と考える。子どもの活動を引き起こすものとしての教材を求めて、教師は、ひとりの人間として、教材の意味を実践の中で発見していく、そして、その過程を通して、教師自身も豊かになっていく」 (p55)

 以上のような対比から、工学的アプローチは「教材」を重視し、適切な教材の選択や、その配列が教授・学習過程を規定すると考えるのに対し、羅生門的アプローチは、「教師」を最も重要と考える。