エピローグ




 その夜、ぼくらが家に帰ると、おじいさんが寝こんでいた。
 ぼくらが地下に落下したとき、あの部屋がどうなったのか疑問だったのだが、どうも、一瞬にしてドアが消えたらしいのだ。おじいさんも入国管理局の人たちもあっけにとられたが、結局、おじいさんの通報はデマだったということで、みんな引きあげて行った。
 これらは、おじいさんの怒りとぐちをお母さんが聞いてあげて、それがパパに伝わって、パパがぼくらに話したことだから、どうもはっきりしない。
 おじいさんはかなりおおげさに通報したらしい。犯罪者の外国人が何人もわが家に住みついていると、管理局に訴えたのだ。
「父さんもボケがきたのかなあ。なんでそんなとっぴな考えにとりつかれたんだろう?」
 パパは老人問題について、真剣に考える必要が出てきたとなげいた。
 それはそれとして、その日の夜、おそくまでどこで何をしていたのか、お母さんに追及された。
「ケンジ! 小学生が夜おそくまで出歩いていいと思ってるの? あなたはもうちょっとしっかりした子だと思っていたのに、チャコの影響かしら。どこに行っていたの。白状なさい!」
 ぼくはことばにつまった。
 おねえちゃんとぼくは、ならんでしかられていたのだが、お母さんは、もっぱらほこ先をぼくにむけた。夜遊びになれっこのおねえちゃんをしかっても、意味がないと考えたのだろう。でもこれは不公平だと思う。
「友だちの家で勉強して……。」
「友だち? 友だちってだれ?」
「ええと、田中君……。」
「本当に? 電話してたしかめてみるわ。」
「そ、それはやめたほうが……、もう夜おそいから、家の人、寝てるかもしれないよ……。」
 ぼくはもう、しどろもどろだった。それをおねえちゃんは、にやにやと横目で見る。まったく不公平だ。
 本当にウソはこりごりだ。二度とウソなんかつきたくないと思ったが、おねえちゃんはそうでもないらしい。
 新学期が始まってから、天音さんの取り巻きだった人をつかまえては、こんなことをいうのだ。
「ね、ね、レイコって、外国に行っちゃったみたいだよ。お父さんが貴族なんだって。大きなお屋敷からむかえが来て、お姫さまになったんだよ。」
「最後に会ったときはね、すっごい衣装を着てたよ。ゴージャスな毛皮でさ、宝石のついたティアラをつけてるの。幸せになったんだよ。レイコは。」
 そういって、おねえちゃんはよく笑う。
 この話も、もう終わりだが、最後にあの、三軒茶屋のカレーショップの話をつけくわえておく。
 なんでも不法滞在の外国人を何人もやとっていたとかで、通報されて店を閉めなくてはならなくなってしまったそうだ。ところが、一ヶ月もすると店は復活した。復活してからは以前より繁盛している。やはりあのカレーの味は、みんな大好きだったんだろう。
 ぼくらは今でもあの店に行く。
 そんな時、おねえちゃんは必ず、天音さんにもらった、あの、うすもも色のバグダラヤの指輪をつけて行く。テーブルにつくと、指輪を見ながら、ほんの少しやさしい顔になるのだ。


                  おわり



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 あとがき 2007/09/21
 この小説は「投稿小説・Total Creators !」というところに、2005/11/03に投稿したものです。当時のあとがきは紛失してしまいましたが、私の初めての長編小説でした。あまりの出来の悪さに、自分で読んで嫌になったのを覚えています。しかし皆さんやさしい。感想批評はとってあるのですが、今読むと、結構ほめられてます。
 さて、あれから二年、いいかげんなんとかしなくてはと、出来の悪い前半部を大幅に改作し、各エピソードを分解、再構成再編集、そして、新たなテーマを盛り込んだのがこの話です。気に入っていただけたらよいのですが。
 それにしても、何で『アンネの日記』のパロディを書こうなんて思ったのでしょう。ストーリーの都合上、「あ、この子はアンネ・フランクなんだ」と思い、そこから人物を作りこんでいったという、なんだか本末転倒な執筆スタイルだったと思います。


 第二版第二稿あとがき 2009/06/29
 今回、ストーリーはそのままに、文章の手直し、読みやすい改ページ方式に改めるなどしました。第三版というほどではないですが、あちこち変わってます。
 この小説を書いたときは、『アンネの日記』の完全版テキスト大型本を図書館で調べたものです。今では懐かしい思い出です。

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