作戦会議





 洋館にもどったぼくらは、みんなの質問攻めにあった。ユタカもトシキもユカちゃんも、何があったか聞いてくる。
「とにかく、少尉は少尉じゃなかったのよ。だから、ちがうの!」
 おねえちゃんの説明は、あっちいったり、こっちいったりで、さっぱり要領を得ない。無理もないと思う。
 ぼくも話に加わって、なんとかいきさつをみんなに伝えることができた。
「少尉さん、かわいそう……。」
 ユカちゃんが顔の前で両手をあわせた。
「だから、少尉じゃなくて、増山権吉さん。」
 おねえちゃんは、しつこい。
「けど……。」
 倉持君がしかめっつらをした。
「その木崎ってひと、高射砲の話はしなかったんだろ?」
「うん。」
 ぼくはうなずいた。
「知らなかったのかな?」
「あたしはちがうと思う。」
 おねえちゃんが、アゴに手をあてた。
「他人に教えたくなかったんだと思う。大騒ぎになるもの。」
「高射砲はどうなっちゃうのかなあ。」
 トシキがつぶやいた。
「あんたはどうしたいの?」
「わかんないよ。ただ……。このまま、なかったことにして、それでいいのかな……と。」
 みんなが押し黙った。
 おねえちゃんが腰に手をあてた。それから、奥のほうへ歩きだして、ろうかをずっと行き、例の部屋のドアを開けた。
 高射砲の部屋だ。にぶい光を放つ砲身が、高だかとドームの天井へむいている。床は円形にくぼんでおり、本物の砲弾がおうぎ型にならんで、いつでも発射できるようになっている。
 後ろからついてきていた、ぼくらを、おねえちゃんはふり返った。
「一発だけ、撃っちゃだめかな?」
 指を一本立てて、おねえちゃんは上をむいた。
「そんなむちゃな!」
 ぼくは、さけんだが、おねえちゃんは続けた。
「こう、空へむけて撃つんだよ。誰にも迷惑がかからないように。そうすれば、少尉――、増山権吉さんの無念も晴れるんじゃないかなあ。」
「弔砲か。」
 倉持君が黒いメガネをあげた。
「チョウホウ?」
「人が死んだら、とむらいの大砲を撃つんだ。」
「うん。それだよ。増山権吉さんも、本物の少尉、つまり権吉さんのお父さんも、なんというか、うらみをいだいたまま、死んじゃったわけでしょ。パーッと花火のようなもので、おとむらいしてあげてもいいんじゃない?」
「賛成です!」
 ユカちゃんが両手をくんで、乙女のいのりをささげた。
「このままじゃ、少尉さんは死んでも死にきれないと思いますわ。」
「だから、少尉じゃなくて増山権吉さん。」
 おねえちゃんは、しつこい。
「けどよー。」
 トシキが頭をぼりぼりとかいた。
「爆発した破片は落ちてくるんだぜ。」
「えっ、そうなの?」
「あたりまえだよ、おねえちゃん。」
 ぼくはちょっとはらはらしていた。何だかおかしな方向へ話がいこうとしている。
「なんとかならない? 最後に見た、権吉さんの顔が、忘れられないんだよ、あたし。」
 おねえちゃんは、本気でなんとかならないか、という顔をしている。
「そうだな。風むきにあわせて、角度や高度を調節してやれば……。」
 倉持君が、ぶつぶつとつぶやいている。
「でも、どこに落とすべきか……。ここは住宅地のまん中で……。」
 なおもぶつぶつ、つぶやいている。
 ぼくはここで、つい、本当に、つい、なんだけど、ひらめいたことを口走ってしまった。
「世田谷公園。」
 みんながぼくを見た。
 倉持君が口をひらく。
「おおっ、さすがはケンジ! そうだよ。世田谷公園に破片を落下させればいいんだ。夜中なら誰もいないはずだし、すごく好都合だ!」
「できるの? うまくそこへ落とすのは。」
 おねえちゃんが興味しんしんの顔をする。
「できるはずだ。風向の観測システムはととのっているし、角度と高度を調節して、世田谷公園上空で爆発させてやれば、破片はみんな公園に落ちるはずさ。」
 倉持君のことばで、みんながワッと盛り上がった。ぼくは、とりかえしのつかないことをいったと思い、ひたいに手を当てた。
「ねえ、音楽を流しましょう。」
 ユカちゃんが、またわからないことをいいだした。
「少尉――、権吉さんが好きだった曲を流しながら、弔砲を撃つのよ。音楽にのって夜空に花火が散るの。なんてすてきでしょう。」
「あの人が好きなのはベートーヴェンだよね。不滅のアレグレットはちょっと……。」
「チャコさん。ベートーヴェンなら、第九だろう。」
 トシキがもっともなことをいった。
「年末じゃないけどねー。真夏の第九かあ。うちのパパが好きなのよ。第4楽章の合唱を、体操しながら見てるの。」
「体操じゃなくて、あれは指揮をしてるんだよ。おねえちゃん。」
 かくして、ベートーヴェン第九番第4楽章とともに、弔砲を撃つことになってしまった。とんでもない成りゆきに、ぼくは軽いめまいを感じていた。






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