アメリカ大統領選挙を左右するユダヤ票

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イスラエルとアメリカは特殊関係で結ばれていると、よく言われる。 特殊関係というのは、単なる同盟関係ではないという意味である。 アメリカの援助なくしては、イスラエルの国家存立が危うい。 そして、イスラエルの意向を代弁する在米ユダヤ人勢力はアメリカの大統領選挙の成り行きを左右するほどの力を持っている。

2014年の時点で、アメリカの人口3億2000万人のうちユダヤ人は542万人である。 数字の上では大した勢力ではないが、彼らはニューヨーク・シカゴ・ロサンゼルスといった大都市とその周辺に住み、選挙では特定の候補者に集中的に投票する。 こうした地域は全米の政治動向を左右するので、こうした地域のユダヤ票は威力を持っている。 アメリカのユダヤ人は他の民族集団に比べて連帯感・一体感が格段に強く、政治意識も格段に高く、彼らの投票率は他の民族集団に比べて格段に高い。 従って、ユダヤ票がアメリカ大統領選挙を左右する。 これはアメリカのユダヤ人勢力の絶大さを象徴する例として、しばしば語られることである。 確かに、これを裏付けるような実例を過去のアメリカ大統領選挙の歴史に幾つか見ることができる。 その典型的な例が1948年の大統領選挙である。 1947年、国連で審議されていたパレスチナ分割案に関して、当時のトルーマン大統領はアラブ諸国とりわけアメリカが石油利権を持つサウジアラビアとの関係を重視し、パレスチナでのユダヤ国家の建設に反対する意向を表明していた。 これに対し、アメリカ・ユダヤ人社会は強く反発し、「1948年の大統領選挙では、トルーマンはユダヤ票を失うだろう」と警告した。 大都市にたくさん住んでいるユダヤ人の票は、選挙戦で不利が伝えられていたトルーマン大統領にとって勝敗を左右する重要な要素だった。 このままでは共和党候補に敗北するという危機感を抱いたトルーマン大統領は前言を翻し、パレスチナ分割案の支持に回った。 これによってトルーマン大統領は翌年の大統領選挙ではユダヤ票の75%を獲得し、きわどい差で勝利した。 マスコミの連中がトルーマン大統領に質問した。「なんであなたはそんなにユダヤの肩ばかり持つんですか」。 トルーマン大統領は次のように言った。「だって君、アラブの肩を持ったって、票にはならんだろうが」。 このように、トルーマン大統領はユダヤ票欲しさに、パレスチナ分割決議を推進したのである。 因みに、トルーマンの父方はユダヤ系である。

1976年の大統領選挙では「アラブ人に対する強硬姿勢を改めなければ、経済援助を削減する」とイスラエルに警告したフォード大統領はユダヤ人の支持を失い、対立候補のカーターがユダヤ票の68%を獲得した。 これはカーター勝利の要因と言われている。 カーター大統領はイスラエルとエジプトとの和平交渉の成功で一時ユダヤ人から高い評価を受けたが、その後、パレスチナ紛争の総合的な解決のためにソ連との交渉に乗り出そうとしたこと、また、イスラエルの入植政策を非難する国連決議案に賛成したことなどによってユダヤ人の反発を買った。 再選を目指す1980年の選挙ではユダヤ票の40%がレーガンに流れたと言われる。

1988年の大統領選挙でもユダヤ票獲得のために、ブッシュとデュカキスの両候補は、PLOがイスラエルを承認しテロを放棄しない限り交渉しないこと、また、パレスチナ国家は認めないことなどを明言し、親イスラエルの姿勢をアメリカ・ユダヤ人社会に訴え続けた。 また、ブッシュとデュカキスはニューヨークタイムズ紙やロサンゼルスタイムズ紙などの有力紙やユダヤ系の新聞紙上にユダヤ人向けの全面広告を掲載し、ユダヤ票獲得合戦を繰り広げた。 例えば、デュカキス陣営はニューヨークタイムズ紙上で、1981年にイスラエルが猛反対したサウジアラビアヘのAWACS(空中警戒管制機)売却をブッシュ候補が支持したこと、1981年のイスラエル空軍によるイラクの原子炉爆撃に対する制裁をブッシュ候補が主張したことなどを取り上げ、ブッシュがいかにイスラエルの利害に反する候補であるかを強調した。 一方、ブッシュ陣営は、パレスチナ人の自決権を主張するジェシー・ジャクソンが民主党内で大きな影響力を持ち、イスラエルにとって危険であると強調することによって、ユダヤ人の民主党離れを促すといった具合であった。 それは相手候補より如何に親イスラエルであるかを競い合うものであり、ユダヤ人の歓心を買う競争であった。