レバノンのイスラム教シーア派武闘組織「ヒズボラ」
1982年にイスラエル軍がレバノンに侵攻すると、イラン政府は革命防衛隊をレバノンに送り込み、イスラム教シーア派レバノン人で構成された武闘組織「ヒズボラ(神の党)」を結成させた。 その結成の狙いは、レバノンから非イスラム的要素を取り除き、レバノンをイラン型のイスラム共和制に変え、イスラエル及び西欧諸国に対するジハード(聖戦)を実行し、イスラエルを殲滅することである。 ヒズボラはベッカー高原(レバノン山脈とアンチレバノン山脈との間に広がる高原)北部のバールベック周辺に拠点を構え、この地域をイラン方式によるイスラム運動の中枢地帯とした。 そして、彼らはレバノン各地の村落に訓練施設を設け、兵員とテロ実行班を養成した。
ヒズボラの精神的指導者はムハンマド・フセイン・ファドラーラで、この聖職者がレバノンのイスラム教シーア派社会ではイスラム法の最高権威者として行動している。 ヒズボラは1992年の総選挙に初参加し、14の議席を獲得した。 現在のヒズボラの政治的指導者(党首)はハサン・ナスラーラである。 彼は1980年代の初めまでは、親シリアのシーア派武闘組織「アマル」のベッカー高原担当者だったが、多数の部下を引き連れてヒズボラに参加したのであった。
ヒズボラは結成当初から過激なテロに走り、多くの欧米人の誘拐・処刑、トラック爆弾で体当たりする派手な「カミカゼ自爆攻撃」を行なってきた。 最近では爆薬を体に巻き付けて突撃する「自殺部隊」も出現している。 1985年2月に発表されたヒズボラの政策綱領は次のようなものであり、イスラエル殲滅のために死ぬことを最高の名誉としている。「レバノン問題の解決はイスラム共和国の建設以外にはない。 この種の政権しかレバノン全住民の立場と権利を保障し得ない。 西側帝国主義と戦い、これをレバノンから一掃するのが重要な目標である。 アメリカとフランスの施設をレバノンから駆逐する。 対イスラエル闘争が中心課題であり、安全保障地帯をパトロールするイスラエル軍を目の敵とするだけでなく、イスラエルの殲滅、イスラエルに対するイスラム支配の確立を目指す」。
ヒズボラの戦闘力の源泉はイランから供給される武器と資金であり、レバノンを実質的に支配しているシリアの黙認もあって、ヒズボラはレバノン政府の公権力から独立した一種の治外法権を享受している。 イスラエル政府の推定では、イランの援助額は年間7000万ドル(約75億円)に相当するという。 ヒズボラは支持者とメンバーの区別が紛らわしいことや、軍事部門が秘密にされていることもあって、実際の戦闘員の数は明らかではないが、大体1万人前後と推測されている。
好戦的な側面ばかりが強調されがちなヒズボラであるが、貧困生活をしているレバノン市民(レバノン市民の凡そ30%)の為に福祉ネットワークを作っており、それ故に貧困層からの支持は厚いものがある。